
児童虐待は年々増加傾向にあり、被虐待児童の多くは乳幼児、学童期の子どもたちです。また、要保護児童には「むし歯」が多いこともわかってきました。
歯科医師は、専門的分野から市町村の保健担当者や学校の関係者と協力し、早期発見や子育て支援に取り組んでいます。 児童虐待には、身体的な虐待、ネグレクト(育児放棄・怠慢)、心理的虐待、性的虐待などがあり、その大半がネグレクト(育児放棄・怠慢)といわれています。 親が子どものむし歯の治療をさせずに放置することもネグレクトや身体的な虐待にあたり、児童虐待にあたります。 歯科医師会では、平成16年より県福祉総合相談センターに児童虐待などにより一時保護された子どもの検診を行っています。子どもたちの数は、年々増えてきました。(図1)

就学前から高校生までのむし歯のある者の割合を比較してみました。(図2) 保護児童では、就学前、小学生でむし歯のある者の割合が高く、特に小学生ではその差が大きいことがわかります。

保護児童には、こんなにむし歯がありました。小学生では特に差が大きく、約12倍の数値となっています。(図3)

保護児童では、むし歯の治療はほとんどされていませんでした。(図4)

保護児童では、あまり歯磨きもされていませんでした。(図5)
5年間の歯科健診の結果から、保護児童においては歯磨きの習慣が不規則で、むし歯も多いことがわかりました。また、児童虐待とお口の関係がはっきりしたことから、歯磨きなどの基本的生活習慣の聞き取りや、歯科検診が児童虐待の早期発見につながることがわかりました。

児童虐待の全国的増加は、岩手県においても同様の傾向を示し、平成17年度の受付件数は274件に上っている。岩手県歯科医師会は平成14年に「児童虐待に対する岩手県歯科医師会の対応」を作成し、具体的な取り組みを開始している。現在では岩手県要保護児童対策協議会、要保護児童対策盛岡地域連絡会議、各市町村の連絡協議会のメンバーとして、歯科医師の参加が要請されるようになっている。

平成16年より学術医療管理委員会では、虐待を受け、岩手県福祉総合相談センターに一時保護されている児童の口腔内状態の検査を行っている。平成17年8月より平成18年9月までに一時保護された児童は3歳から16歳までの52名で平均年齢は10.96歳だった。DMF歯数は5.59本で児童の県平均0.97本(11歳児)の5倍以上であり、同様に、保護児童のDMF歯率は22.4%、DMF者率80.8%で、県平均(11歳児)のそれぞれ5.2%、30.7%を大きく上回っている。前年行った調査においても、保護児童のDMF歯数で約5倍、DMF者率で約2倍と同様の傾向を示し、口腔内の状態とネグレクト(育児放棄)などの児童虐待が密接に関わっていると考えられた。
岩手県の調査において、虐待の種別の割合は、身体的虐待40%、ネグレクト31%、心理的虐待25%、性的虐待4%となっている。歯科治療の受診機会を与えないことはネグレクトに含まれ、これが全体の31%と高い割合になっていることを考えれば、歯科健診の結果が児童虐待の早期発見の手掛かりになる可能性が大きいことを示している。

児童虐待の発見に際し、医科では虐待の兆候を発見した時には、すでに身体に傷を負っている状況だが、歯科では深刻化する前に兆候のシグナルを発見できるのではないかと考えている。ネグレクト(育児放棄)により、児童に歯磨きの習慣が無かったり、保護者が歯科治療を受けさせなかったのが原因でう蝕が多発したり、食生活が乱れ、口腔清掃が不十分な状態にあるなど、日常生活の調査も含めて学校や行政がチェックすることにより児童虐待を早期に発見できる可能性がある。少なくとも虐待に至る前の養育不全の状態で回避できるのではないかと考えられる。早期の養育支援(子育て支援)を開始することにより、親の負担を軽くし、児童の健康回復、健康維持をはかることができる。乳幼児健診、学校健診という毎年行う継続した健診の判定結果に児童の家庭状況を加えて考慮することにより、養育不全を早期に発見し、養育支援(子育て支援)のタイミングを失わないようにしなければならない。そのためにも乳幼児健診における健診医と保健センターの保健師・歯科衛生士、学校健診における学校歯科医と養護教諭との相互の連携と情報の共有がより重要になる。また、今後の乳幼児健診と学校健診の健診結果を継続したデータとしてとらえていく必要がある。今後、学術医療管理員会では学校歯科医研修会等において児童虐待防止のための情報を学校歯科医に提供する予定になっている。
岩手県歯科医師会は、岩手県が策定した児童虐待防止アクションプラン(アクション1:予防する、アクション2:早期に発見する)を推進するために、会員に児童虐待防止マニュアルを配布し、講習会、研修会を充実させるとともに各関係機関との連携を強化したいと考えている。

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